【無料公開】ホタテがつないだ浜の復興。2014年4月号「恋し浜ホタテ」

2020年2月15日放送の「ブラタモリ」でも特集される「恋し浜駅」。

全国に4つある「恋」のつく駅として知られています。

わずか20数世帯の、小さな集落「小石浜」。いまやメディアにも多数取材され、三陸の観光名所ともなりました。「こいしはま」をもじって「恋し浜」になった同駅ですが、もともとは漁師たちが地元のホタテにつけた愛称「恋し浜ホタテ」からついた駅名です。

 今回は、この「恋し浜」と、ホタテの生産者についてご紹介します。


大船渡市「恋し浜」

恋し浜駅は、三陸鉄道で大船渡市中心部から3駅の小さな無人駅。

駅に降り立つと、海と小さな集落が目の前にひろがります。

この集落はほぼ全員が漁業を生業にしており、ホタテとホヤを生産しています。中でも有名なのは「恋し浜ホタテ」。築地で全国最高値をつけたこともある、ブランドホタテです。

恋し浜ホタテの特徴は、肉厚なホタテの身と、磯の香りが強い濃厚な味。醤油やバターをつけてなくても、それだけで美味しい!と評判です。


※恋し浜ホタテは産直サービス「ポケットマルシェ」で販売中です。


東北食べる通信はこのホタテの美味しさの秘密をもとめて、2014年、小石浜に取材におとずれました。当時は震災から3年後。他の浜はまだまだ復興が遠い状況でしたが、小石浜はちがいました。

「なぜこんなに早く、復興したの?」

「こんな小さな集落が、なぜ全国的知名度に?」

こんな疑問に応えてくれたのは、地元の漁師、佐々木淳さん。深夜3時から操業する佐々木さんの船に乗るところから始まった取材の記録、そして恋し浜ホタテの秘密、復興について取材した記録を公開いたします。

 


 

東北食べる通信 2014年4月号 

「恋し浜ホタテが紡いだ つくると食べる」

特集:恋し浜ホタテ

生産者:漁師 佐々木淳さん

一人きりの船上作業

3月25日午前3時半。ホタテの水揚げに向かう大船渡綾里(りょうり)小石浜の漁師・佐々木淳さんの船に、高橋博之はじめ『東北食べる通信』取材班も乗り込んだ。この浜の漁師の多くが夫婦協同で漁を行う中、淳さんは常に単身、沖へ出る。早春特有の、たっぷりと卵の張ったホタテが170個もぶら下がったロープを、海中からガラガラ引き上げてはよどみなく雑物を払っていく。「俺は一人がいいんすよね。このくらいの仕事、一人で余裕でしょ。女は乗せねえ。」男っぷりよくそう語ってニヤリと笑う。

あの震災発生時も一人船上にいた淳さんは、尋常ならざる揺れに、漁師の鉄則である「沖へ逃げろ」に反して陸へ取って返したという。高台へ駆け上がり、家族の無事は確認したが、眼科の船は波に飲まれた。ところが「2日だか3日して、うちの船が、ひっくり返ってガレキにひっかかっているのを見つけたんだ」。取材班が同乗したのは、救出されたまさにその船だった。


帆立三代に渡って面倒を見る

浜直送の上質な海産物としてブランドを確立してきた「恋し浜ホタテ」。その生産集団である淳さんら小石浜青年部のメンバーの多くは、船を流出し、漁場も設備も根こそぎ失ったが、生産再開への始動は極めて早かった。この4月にはいよいよ、浜からの箱詰め直送を本格再開。水揚げしたての2年もののホタテを、ヘラでざっくりさばいて振る舞った淳さんは、「味が、濃いでしょ」と、その仕上がりにも自信をのぞかせた。

華々しい水揚げは、生産の仕上げのほんの一行程に過ぎない。春の抱卵後、いわば赤ちゃんである”稚貝”を取り、海中で翌春まで育成。それをロープに吊るして海に沈め、付着する生物を丹念に除き、浮きで深度を調整しながらじっくり育てる。2年を費やしてようやく水揚げに至るのだ。「今は抱卵前で卵が一番張っている。じき抱卵すると孫が産まれるようなもので、二年もの、一年もの、稚貝の三世代に渡って面倒見ることになるわけ。小っちゃい稚貝が、ぶっ飛んで泳ぐ様子もいいし、海から引き上げて成長の度合いを眺めるのもいい。充実を感じる瞬間は要所要所にあるなあ。可愛いか?可愛いよねえ」と、よく焼けたその相好を崩す。

小集落が
日本一のホタテを出した

淳さんら小石浜青年部の父世代は、昭和63年、築地市場において当時最高値のホタテを出した実績を持つ。それは、陸の孤島と揶揄された少漁村として生き残りをかけ、「量を減らし、質を上げる」方向へ意思統一を図った成果だった。元来、人より量を多く獲りたい気質の漁師たちが、各々の生産数量を取り決め、その数量を報告し、チェックする体制を徹底したのだ。「小さい集落だし、協力しないわけにはいかねえべ、という雰囲気は昔っからあった。小さいからこそ出来たんだろうね。」

つくった新たな経路

しかし、平成のバブル崩壊はホタテの価格を低迷させ、その苦境は淳さんが家業を継いだ時期にも重なった。共に上質のものをつくろうと父世代が培った技術、精神を受け継いでも、価格に一向に反映されない。「商人だって儲けを出さなきゃいけないわけで、状況によってホタテが安くなるのはやむを得ない。でも、あまりに値を下げて、生産者が苦しむのはおかしい。そこを打開しようと我々は動き始めた。自分たちで動かないと、人任せだと無理だった。」

お客さんとの
顔の見えるつながり

彼らがつくり上げた直送の仕組みは、極めてシンプルだ。中間経費がかからないから、消費者は上質なホタテを安く買い求められ、漁師は適正な利益を得られる。「実は地元に出回っていない」という盲点をういて地元向けの直売から始めたところ、お中元の品として大ヒット。足場を固めながら、その評判を着実に広め、実績をたかめていった。消費者と漁師、互いの顔が見えるじかの結びつきは、消費者に安心と愛着をもたらし、漁師は生産意欲を向上させた。そこへ降り掛かったのが、あの震災だった。


よいときも
悪いときも支える

マイナスから出直しを余儀なくされたのは小石浜に限ったことではないが、彼らの再始動には、国から補助を待たずに他に先駆けるスピード感があった。その強い後押しとなったのが、莫大な寄付。「漁協に来た支援の多くが、うちらとの付き合いの中から来たものだったんです。沖の防波堤だって全然進んでいないのに、港に立派な荷捌き施設があるでしょ。あれは、その寄付があったからできたものです」

支援の熱は、さらに漁師と漁協の手を離れてまで恋し浜ホタテを世に知らしめようとする人々を生み出している。「小石浜の人間ではないけれど、小石浜に共感してくれている」彼らのことを、淳さんは「サポーター」と呼ぶ。……いわばそこの”価値”で結びついていた生産者と消費者が、よいときも悪いときもつながり合っている。

「勝手な使命感」と照れながらも積み上げてきた、淳さんらのこの取り組みと成果は、今、近隣の同業者にも確実な刺激を与えている。

東北食べる通信 2014年4月号 

特集:「恋し浜ホタテが紡いだ つくると食べる」(一部抜粋)
文:保田さえ子


恋し浜ホタテを食べるには?

 

「恋し浜ホタテ」は、綾里漁協のウェブサイトの他、産直サービス「ポケットマルシェ」で生産者さんが販売されています。ぜひ、美味しいホタテを味わっていただければと思います。

綾里漁協組合 海産物販売【活ホタテ】 (5月発送で、先行予約ができます)

小石浜青年部 生産者 佐々木淳さんによる販売ページ(こちらも先行予約受付中)


都内で綾里の海の幸を食べる

佐々木さんをはじめ、大船渡市綾里(りょうり)地区と、消費者の交流は今でも続いています。東京の高円寺で毎月開催されるマルシェ「座の市」では、ファンのみなさんがワカメ、ホタテ、サンマなどの水産物を毎月出店しています。

多くの生産者さんも登場するマルシェです。都内在住の方はぜひおこしください。

「座・高円寺の座の市」

東京都杉並区高円寺北2-1-2 
毎月第三土曜日に定期開催

「座・高円寺の座の市」webサイト


今回の記事は、東北食べる通信2014年4月号を元にしております。

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連絡先:info@taberu.me

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