私たちの暮らしは、他人がつくったものを貨幣と交換して手に入れることで成り立っています。効率もよく、楽ですが、そこには、自分たちの暮らしを、自らの知恵、創意工夫でつくりあげる喜び、感動がありません。私たちの暮らしは、私たちの手の届かないところに遠のいてしまいました。
暮らしには、衣食住が欠かせません。そして、一人の力で解決できない大きな課題はみんなで力を合わせて解決し、暮らしやすい地域をつくっていかなければなりません。
私たちはこれまで、衣食住、地域づくりを他人の手にゆだね、観客席の上から高見の見物をしてきたと言えます。誰かがつくってくれるだろう、誰かがやってくれるだろう、と。暮らしをつくる主人公(当事者)ではなく、お客様(他人事)でした。当事者を失った社会から活力などうまれようがありません。
自分の暮らしを取り巻く環境に主体的に”参画”する。まずは、基本の“食”から。自分の命を支える食をつくる“ふるさと”を、一人ひとりがみつけてほしい。できるなら、その食をつくる人や海や土と、関わってほしい。自分たちの暮らしを手の届くところに取り戻すことで、自ら暮らしをつくりあげる喜びを思い出し、自然災害や経済的リスク、生活習慣病などを抱える脆弱な社会に備える。
わたしたちは、そんな思いをもって、
食べる通信を立ち上げました
日本には古くから、人も、海も、土も、支えあって生きる社会がありました。ほころんでいたとはいえ、まだ残っていたその支え合いの精神が、震災直後の被災地で生きる人々の命綱となりました。日本食べる通信リーグはここから出発し、もう一度、人も、海も、土も、支えあって生きる社会を力強くめざします。
そのためにわたしたちが果たすべき使命は、食に”参画”する回路を開くことです。海や土からつくられる食が食卓へ届くまでのプロセスを共有し、生産者の思いや哲学に触れ、様々なかたちで”参画”していく。そのかたちには、知る、購入する、体験する、学ぶ、交流する、コミュニケーションをはかるなどがあります。
食に関わるおもしろさ、社会にコミットするおもしろさを実感できる独自のサービスを開発、提供します。食をつくるプロセスの一部に自ら”参画”した食材が、数ヶ月後に食卓に届くことで、断絶していた「つくる」と「たべる」をつなぎます。これまでの消費社会には、このつながりが欠落していました。そこにあるのは、単なる食とお金のやりとりだけ。
生活とは、活かして生きる、と書きます。
このつながりを回復することで、「消費者」を「生活者」に変えたい。そのためには、単に生産者がつくった食べ物だけでなく、人間の力が及ばない自然に働きかけて命の糧をうみだす生産者の生きざまそのものに価値を見出だしていく必要があります。その価値を伝える情報を生活者に届け、その価値を共有する「生産者=郷人(さとびと)」と「生活者=都人(まちびと)」で新しいふるさとを創造するプラットフォームをつくります。
断たれていた郷人と都人のつながりが回復されたとき、都市と地方はしなやかに結び合っていきます。そうして、両者が一緒になって新しいコミュニティとしての「命を支えるふるさと」、「心の拠り所となるふるさと」を創造する喜びと感動を分かち合っていく。
都市の背後に立派な地方(農山漁村)がなければ、やがて共倒れします。今、郷人も、都人も、消費社会に飲み込まれ、疲弊しています。元気を取り戻すには、「つくる」で両者がつながることです。郷人にはつくる力がなくなり、都人にはつくる喜びがない。わたしたちは、食を通じて両者を混ぜ合わせ、一人ひとりの暮らしにつくる力と感動を回復していきたい。
これまで相容れないとされてきた「競争を避ける内に閉じた『地方の共同体を重視する社会』」と「競争を促進する外に開いた『都市の個人を重視する社会』」が、食を介して混ざり合った先に、活力に満ちた新たなコミュニティ、新たなふるさとを創出し、心躍るフロンティアを開墾していきます。
1974年岩手県花巻市生まれ。岩手県議会議員を2期務め、2011年の県知事選挙に立候補。沿岸部の被災地270キロを徒歩で遊説する前代未聞の選挙戦を展開した。その後、事業家へ転身。“世なおしは、食なおし。”のコンセプトのもと、2013年にNPO法人東北開墾を立上げ日本初の食べ物つき情報誌『東北食べる通信』を創刊。2014年「日本食べるリーグ」を創設。2016年、生産者と消費者を直接つなぐスマホアプリ「ポケットマルシェ」を創業。
著書:『だから、ぼくは農家をスターにする 「食べる通信」の挑戦』(CCCメディアハウス)、『都市と地方をかきまぜる』(光文社新書)
共著:『人口減少社会の未来学』 (内田樹編、文藝春秋)、『共感資本社会を 生きる』(ダイヤモンド社)