【バックナンバー公開】ひろしま食べる通信|広島県三原市・久和田農園物語(1/3)

▲久和田一夫さん(写真右)と早紀さん(写真左)ご夫婦


食べる通信で過去に特集した記事をご紹介する「バックナンバーアーカイブ」。
今回は『ひろしま食べる通信vol.14(2018年9月)』に特集した広島県三原市の農家・久和田農園の物語です。

久和田農園が栽培しているのは、これからまさに旬を迎える葡萄(ぶどう)と梨(近年では白ネギも)。特に葡萄は「仏通寺葡萄」という総称で広島県三原市の特産品の一つとなっています。久和田農園の大きな特徴は直売所の販売が主なルートということ。しかも直売所は畑のすぐそばにあり、カーナビで住所を登録しても辿り着くのが難しい場所にあります。それでもわざわざここに葡萄を買いに訪れるお客様が絶えないのは理由があります。味はもちろんのこと、久和田さんご夫婦とのつながりがそこにはあるからです。
8月中旬から10月中旬という約2か月間の間に20種類以上の葡萄の品種が販売することで、短い期間の中でも何度か足を運びたくなる工夫もしています。

本特集記事では、第一弾として葡萄の収穫/摘粒/直売の体験記事を。第二弾として久和田農園の歴史と一夫さんの思い。第三弾として早紀さんの思いをお届けします。一夫さんと早紀さんが二人三脚で農園経営に取り組まれている姿やその背景を味わってください。

複数回に分けて公開しますので、ぜひ最後までお楽しみください。

その2|8月2日(日)公開

その3|8月3日(月)公開


ひろしま食べる通信 Vol.14

(2018年9月発行)


収穫

陽光を浴びてキラキラ輝く緑と白の楽園 黒、赤、緑の宝石がたわわに実る夏

8月21日、この週は台風の接近が心配されていたが、広島市内を出発した朝6時ごろはとても涼しく、青空に真っ白な雲がプカプカと浮かぶ爽やかなスタートだった。久和田農園では盆明けの18日から本格的な収穫期に入った。訪れるのは約2カ月前の摘粒作業以来で、風景は一変。葡萄園には白い袋をかけられた葡萄の房がいっぱいにぶら下がり、張り巡らした蔓が懸命にその重みを支え、蔓と葉の間から差し込む光を浴びてキラキラしている。

奥の葡萄園をのぞくと、せっせと収穫中の従業員の方を発見。穫っているのはサニールージュという品種だ。久和田農園では随時新しい品種の育成に挑戦しているが、今年は16種類の品種が収穫できることになっていて、この日はそのうち1種類を除く全ての品種が実っていた。食べ頃になるにはもう少しという品種もあるが、初めて訪れた5月の終わりにはまだ種のような粒だったのが、コロコロと立派に成長している。

同じ品種でも房によって熟度が違う。一房ずつ袋を開けて、房の重み、粒の大きさ、色の濃さなどを確認しながら収穫していく。色が丁度良くても味がまだ十分でない場合もあるという。全ての房を味見するわけにはいかないので、ここは経験がものをいう。

房の形もそれぞれ。「これぞTHEぶどう!」といわんばかりの逆三角形もあれば、全体的に丸々していたり、縦に長かったり。摘粒の仕方にもよるが、自然が創り出すフォルムはできてみるまで分からないから、難しくもあり面白くもある。収穫した葡萄は形も含めて「良」「優」「秀」の三段階に格付けして販売する。

白い袋は病気や害虫、鳥、風雨などから実を守るためにかけられ、収穫の際に外されるが、この袋を収穫前に器用に取り外し、葡萄を「味見」しに来る(招かざる)客が久和田農園には現れる。野生の鹿である。

「追い払うんですけど、慣れてしまって…いちおう鹿も仕方なさそうに驚くふりをして一度は少し離れるんですが、また戻って来るんです」と頭を悩ませている。しかもほぼ毎日、午前と午後にやって来るそうだ。

鹿もやみつきになるくらいおいしいってことだ! なんて喜べるはずはない。鹿による食害は葡萄農園に限った悩みではないが、手間暇かけて大事に育てた商品を無銭飲食されるのだから、たまったものではない。

今日は知らない人がたくさん来ているから、鹿も警戒して来ないかもしれないねなんて噂をしながら取材を進めていると、一夫さんが背後に気配を感じた。振り向けば、ヤツがいた。「後ろで袋を触る音がすると思ったら」と一夫さん。

立派な角を冠した鹿が農園の端にたたずみ、じっとこちらを見つめている。きょとんとしているように見えるが、動じる様子はなく、おもむろに葡萄にかじりついた。カメラマンがそっと近づくと、飛び跳ねるように斜面を駆け下りて行った。犯行現場をしかと目撃し、激写したので、証拠写真を本誌に掲載しておく。突然の対面に編集部は興奮気味。従業員の方いわく「10時に来たなら、次は15時ですかね」鹿は規則正しいのだろうか。

この後少し離れた農園に移動すると、手伝いに来ていた方が「やられた~」と悔しそう。どうやら先ほどの鹿が「あちらがだめなら、こちらで」と食事場所を変えてきたらしい。すぐそばには一夫さんが営むネギ畑もある。一夫さんいわく「ネギ畑の雑草を食べてくれるのはいいんですけどね(笑)」鹿なりの、せめてもの恩返し? お詫び? のつもりか…。日が高くなるにつれて、朝の涼しさはどこへやら。やっぱり今は猛暑だったと嫌でも思い出すほどの日差しが照りつける。木陰に吹く風がありがたい。おすそ分けにいただいたサニールージュはとっても甘くて瑞々しく、渇いた喉を潤してくれた。

農園から辺りを見わたすと、空と山の境界線、空と雲の境界線が、妙にくっきりしていて、なんだか本物じゃないみたいな、まるで絵に描いたような風景が印象的だった。

 

摘粒

人の目と人の手で一粒一粒 最も手間のかかる摘粒作業

6月18日、今日は摘粒の作業を見学させてもらえるということで、約2週間ぶりに久和田農園へ。あいにくの雨だが、従業員の皆さんが雨合羽を着て黙々と作業を進めている。前回訪問時は果実というより「点」のように小さかった粒が、この日はまだ青く小粒とはいえ、プリッと成長していた。

このくらいの時期になると「摘粒」という作業に入る。粒の大きさと房全体の形といった商品としての仕上がりを左右する大事な工程だ。見ての通り葡萄の房にはたくさんの粒が付いているが、数が多すぎると成長するにつれて粒同士がギュウギュウと押し合いつぶれたり割れたりしてしまう。それを避けるために適正な粒を残してほかを落とし間引いてやるのだ。

編集部も体験させてもらえるということで、専用のハサミを借りて、いざ。出来映えに関わるのでドキドキと責任を感じ、真剣に一夫さんのお手本を見ながら説明を聞く。

摘粒の大まかな流れは、専用のハサミをものさし代わりにして、房の先端もしくは根元から長さを決め、その範囲外の粒を落とす。残っている粒で、たとえば内側や上側、下側に向いていてそのまま成長したらほかの粒とぶつかってしまいそうな粒を落とす。残す粒にハサミの刃が当たってしまうと傷つけて大きくなった時に割れてしまうので注意。さらに、成長した時に全体の形が美しい逆三角形に整うように想定して落とさなければならない。品種によって違うが、今回は最終的に50粒くらい残して整えるようにとのことだった。もちろん房ごとに粒の数を数えて確認するわけにはいかないので、これも感覚だ。

分かったつもりで取りかかろうとするが、長細く間隔を空けて粒が付いている房、ギュッと粒が密集している房、一房一房、実のなり方が違って迷ってしまう。間違ってはいけないので、切ってよいものかどうか確認。進めていくうちに最初よりは理解できたような気もするが、やはり正確な見極めには経験の積み重ねが必要な難しい作業だ。スピードも大事。一夫さんはもちろんだがパート従業員のお母さんたちも手際よく進めている。自分のようなペースでは何日かかることか…。

任された枝を終わらせて、あとは一夫さんが手直ししてくれている。編集部が手がけた房も、元気に美しく成長しますように。

葡萄が実るまでにはいくつもの工程があるが、その中で最も手がかかるのがこの摘粒作業。現状では機械化はできず、人の目で見て判断し手作業で処理するしかない。一夫さんいわく「摘粒ができる機械が発売されたら、少々の金額なら多少無理して融資を受けてでも買いますね」というくらい、摘粒の作業は骨が折れる。しかし同時に「でも全国的に機械化が広まると、葡萄の値段はたぶん下がりますよね」と言う。これから葡萄をいただくときは、人の手仕事の価値もしっかり噛みしめよう。摘粒後、一房一房袋をかけられ、8~9月の収穫まで大切に守られる。

ちなみに摘粒で落とす実はものすごい数になるため、なんだかもったいない気がするが、今のところ再利用などはされていないという。落とした粒を拾ってかじってみる。少し酸っぱいが、これはこれでおやつになりそうだなと思った。ついでに葡萄の葉もかじってみたが、特にクセはなかった。これを煎じたら「グレープ茶」みたいなフレーバーティーができないかな…前号の世羅在来茶特集以来、葉っぱを見るとついつなげてしまう。

直売

今年もまたこの場所で 変わらぬ笑顔に会える喜び

久和田農園は敷地内に直売所を設け、自分たちが作る葡萄を求めてくれる人に、直接届けている。インターネットでも販売しているが、直接顔が見える直売所でのふれあいはやはり特別なものだ。今年は8月18日からオープンしている。

8月21日、朝から葡萄園で収穫シーンを撮影し、鹿と遭遇してわいのわいの騒いでいた時、時刻は午前10時を少し過ぎていた。直売所は10時開店。さっそくお客さんが来店したようなので、直売所をのぞいてみた。

開店して間もないのにすでに二組目が訪れ、その対応が終わるとまた新たなお客さん、そのまた後にも…とにぎわっている。初めて来たと思われるお客さんもいれば、見るからにもう長いお付き合いなんだろうなと分かるお客さんもいる。

あるお客さんは、被災した取引先へのお見舞いに久和田農園の葡萄を贈っているのだという。久和田農園では梨も作っており「梨と葡萄がセットにできて、葡萄もいろいろな種類があるから贈った人も喜んでくれるんですよ」とうれしそう。なるほど、箱を開けた時、黒、赤、緑などいろんな葡萄が並んでいたら、確かにワクワクする。その上ジューシーな梨までついてくるとは。この季節、容赦ない日差しで乾ききった体に、優しくうれしい贈り物だ。

ひっきりなしのお客さまの要望に、手際よく対応する早紀さんたち。さっきもぎ取ったばかりの葡萄を一房ずつ、悪いところはないか確認しながら丁寧に袋をかぶせて箱に詰め、お客さんに手渡すが、ここで話に花が咲く。お客さんは葡萄を買いに来ただけではない、久和田農園の人たちは葡萄を売っているだけではない。互いの顔を見て心が和み、募る話に時間を忘れる。久和田農園の直売所は、葡萄を介して築かれたつながりが目に見えるような空間だった。


その2へ続く|8月2日(日)公開


『ひろしま食べる通信 Vol.14(2018年9月発行)』より特集記事を抜粋

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