【バックナンバー公開】ふくおか食べる通信・創刊号|福岡県朝倉市・秋吉智博さんの物語(2/3)

ふくおか食べる通信_秋吉さん正面写真

その1はこちらから


柿之屋誕生

そうと決まれば、その生産の努力、苦労、工夫を直接消費者に伝えたい。そして、それを理解してもらえる方、評価してもらえる方に食べてもらいたい、と思うのは自然な流れである。智博さんは、個人流通、つまり直接消費者に売ることにチャレンジした。2004年にファームアキヨシ改め「柿之屋」に変更。当時、農家では珍しかったホームページを立ち上げ、ブログを開始した。その当時の最初のブログにはこう書かれている。

「その1 百姓にはホームページが似合う?! 皆さん、初めまして。柿之屋の秋吉智博(あきよし・ともひろ)と申します。24歳、男、独身です。今年から、それまでのファームアキヨシを改め、柿之屋として再スタートを切りました。生産者の顔の見える、消費者の声の聞こえる農業をめざします。現代は、ホームページなんていう便利なものがあります。百姓こそホームページだ。と気張るわけではありませんが、ここから農園の便りをこつこつお届けしたいと思います。今後ともどうぞよろしく。(04.11.15)」

初々しく、かつ希望に満ち溢れていると同時に覚悟も感じられる素敵な文面である。

ふくおか食べる通信_秋吉さん_柿収穫2

最初の試練

減農薬、減化学肥料栽培と言っても容易にできるものではない。特に果樹の場合はコメや野菜に比べ難易度が高いと言われている。智博さんも最初の2〜3年は思うようにいかず収入が激減した。加えて、消費者へ直接売るという行動は、当時、周囲の関係者の理解を得る事がなかなか難しかった。それでもめげずに続けられたのは、18歳の時の決断「自分がやる」という意思決定を後悔したくなかったから。

そして、母マチ子さんの存在が大きかった。マチ子さんは、これまで培ってきた秋吉家のやり方を大きく転換させようとしている智博さんの話をじっくりと聞いた。じっくり聞いて任せた。「どうせ言うたって聞かんけんですねー。あの子は頑固なんですよ」

そう言うマチ子さんにも不安が無かった訳ではない。しかし「子供を伸ばすには、やりたい事をやらして、失敗も受け止めんといかんと思います。ただ、取り返しのつかん失敗だけはさせんように、ここまでは良いけど、こっからは無理よ、とそこは私が線引きをしていました」なんとも素晴らしい教育方法ではないか。リーダーシップに悩む社会人諸氏はマチ子さんに学ぶべし。筆者も子育てに悩む一人の親として、マチ子さんの育成論は珠玉の言葉だった。この後、マチ子さんは智博さんの後ろ盾となり、彼が仕事をやりやすいように親として最大限のサポートをしていくのであった。

追い風

福岡県には「ふくおかエコ農産物認証制度」という制度がある。これは化学合成農薬の散布回数(成分回数)と化学肥料の使用量をともに県基準の半分以下で生産する栽培計画を認証する制度で、この制度に基づき、生産された農産物(認証農産物)には認証マークを表示することができる。智博さんが柿の減農薬、減化学肥料栽培を始めて2年後の2006年、この厳しい基準をクリアして、ふくおかエコ農産物認証を取得した。柿の取得に関しては福岡県内で第1号である。日頃から丁寧に個人客に手紙やDMを出していた智博さん。この認証取得を機に徐々に評判が広がり常連客が増えていった。

この時の喜びを智博さんはブログにこう綴っている。

「福岡県農業振興推進機構から福岡県減農薬・減化学肥料栽培の認定書をもらいました。これは、福岡県の農産物栽培農家が栽培計画等を申請し、減農薬・減化学肥料栽培認定基準を満たす者に認定されます。柿の管理は、まだまだこれからで、計画に添えない場合は認定の取り消しもあります。今年の秋に県内初のFマ-クの付いた柿を届けられるように頑張って管理していこうと思います。天気も味方してくれるといいな」

ブログにもあるように計画に添えない場合は認定が取り消されるという非常に厳しい制度である。にも関わらず、この年から今年まで一度も取り消される事なく認証を取得し続け、今では認証基準をはるかに下回る回数での栽培を実現している。

冬場のバイト

ふくおかエコ農産物認証を10年以上続けている事がいかに難易度の高い事かを思い知らされる出来事があった。2006年、2010年、2011年の大不作である。これらの年は夏場のカメムシの大発生や長雨、台風の影響により、結果的に病気が蔓延し柿の収穫量が激減してしまった。特にひどかったのが2011年。柿園には炭疽病(たんそ病)という病気が異常発生した。病気の入った果実や枝の除去を行うも、雨で作業が進まず、病気の被害が拡大。この年は例年の半分以下という収穫量だった。

智博さんは当時の事をこう振り返る。「それまでが天候にも恵まれて、なんとかそれなりに、うまくいっていたので、完全に厳しさを痛感した感じです。やっぱり、難しいなと…農薬を減らすという事がこういう事なのかと、改めて生産の厳しさを思い知らされました。そもそも、柿で取り組んでいる人がいませんでしたしね」認証基準にこだわらず農薬を散布していれば、ここまで被害は大きくならずに済んだと智博さんは言う。しかし、こうも続けた。「でも、エコ認証をやめる気は全くありませんでした。この年は冬場のバイトをしてなんとかしのいでましたね。苦労という実感はないです。単純に自分の実力、技術不足と思ってますので、反省点は繰り返さない様に今も心がけています」そして最後にこう付け加えた。「逆に、あんな状況の中、病気に負けなかった柿の実を大事にしていきたいと思いました。化学肥料はもちろん、農薬散布も限りなく減らした、福岡県認証の安全と安心の柿の実を少しでも多く収穫し、皆さんにお届け出来る様に、頑張っていきたいと思いました」そこには、智博さん自身が18歳の時に「俺が継ぐ」と意志決定した事を後悔したくないという強い想いが感じられた。

その3へ続く|7月25日(土)公開


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