【バックナンバー公開】大阪食べる通信|堺市「大阪ウメビーフ」を育てる原野親子の物語(3/3)

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素牛(もとうし)を買うのはバクチと同じや

 およそ三か月に一度、子牛のセリが開かれるのは、大阪から二時間強の京都府福知山市にある市営家畜市場。開始時間には百二十頭ほどの素牛が揃った。このセリで、将来大きくなる牛を見分けることができるかが肥育農家の勝負どころだ。真剣なまなざしで順番に素牛を見つめる原野親子に牛を見分けるコツを尋ねると、「牛にも血統があるからなあ。あの父親と母親のかけ合わせなら、サシが問違いないはず、とか」サシとは、私たちが霜降りと呼んでいる筋肉の問に入った脂肪のこと。それが細かいほど上質だとされている。他にも立ち姿や骨の太さ、父親似か母親似か、落札予測価格は妥当かどうか、今回は見送るのか、買うのか、長年の経験と勘がものを言う。この入札の仕組みは、手元のボタンを一度押すごとに入札額が千円づつ上がっていき、最後に一番高値を付けた人が競り落とすというものだ。もちろん、他の農家との駆け引きになり、ボタンは机の下で隠れて押す。焦って満足できない素牛を取りにいくことはない。日によっては全く買わない時もある。「素牛を買うのはバクチと同じや」と祥次さんが言う所以である。

 実は、四代目の祥次さんは、先代が生きている問はこの責任あるボ夕ンを一度も触らせてもらえなかったそうだ。しかし、五代目の作啓さんは一年目から託された。目利きの実力を試される重要な仕事だ。間違えぱ上手に育たない牛を高値で買ってしまうことになる。しかし、躊躇していたらどんどんセリが進んでいく、緊張感が高まる瞬問だ。しかし、今でも後ろでボタンを押すタイミングを祥次さんに指図されるらしい。「ここは行かんかい、言うのに、パツと手を放したりするからな」と五代目の成長に期待をかける祥次さんは楽しそうだ。今年の春に開催されるセリは、初めて作啓さん一人に任せるつもりだという。

 原野牧場の将来についても聞いてみた。「このまま街中で続けるんやったら、今の規模が限界。よそに移って大きくするか、今までみたいにええ肉を作ることにこだわってここでやっていくのか、こいつ次第や」と五代目に温かい視線を送る。

大阪初の牛肉ブランド大阪ウメビーフ誕生

 隠れた大阪の牛肉プランド、大阪ウメビーフは、名前の通り「梅」を食べて育つ。その誕生のきっかけとなったのは「もったいない精神」。大阪の羽曳野市に本社を置くチョーヤ梅酒株式会社から農林技術センター(当時)に、「梅酒を漬けたときに残る梅がそのまま産廃になっている。なんとか有効活用できないか」という相談があった。梅酒に漬けこんだ梅は最後にはほとんど取り除いて出荷されるため、大量の梅を処分せざるを得なかったのだ。農林技術センターで試験したところ、牛はこのアルコールがしみ込んだ梅をよく食べた。この試験結果を基に、平成十三年原野牧場に話が持ちかけられた。最初は「梅なんか牛が食べるんやろか」と半信半疑だったのだが、牛に食べさせてみたら試験結果の通り、じつに美味しそうにたくさん食べてくれた。

 しかし、ここで問題が発生する。果肉は食べてくれるのだが種はそのまま吐き出してしまいエサ箱は種だらけになってしまったのだ。これにはさすがに困ってしまい一度お断りしようとチョーヤの社長さんに伝えたが、それならと、わざわざ梅の種を細かく砕く専用の機械を作ってくれ、種を全部砕いてくれることになった。今度は牛は砕いた種も綺麗に平らげた。「まあ、よう食べる、食べる。体にええもんは分かるんかなぁ。ようさん食べてくれて、大きな牛に育ってくれることがわかったから、梅、もっともってこい。もってこい。ということになったんや」と祥次さん。大阪ウメビーフの誕生であった。

 一頭の牛が食べる梅の量は日に一キログラムから二キログラム。細かく砕いた種も、胃の中でよい刺激になっているそうだ。梅だけでなく他のエサも吟味されている。普通のエサはトウモロコシが六割以上だが、原野牧場ではそれを二割程度に抑え、それ以外は経験に基づいた独自の配合でエサを与えている。トウモロコシを多く食べさせると成長は早くなるが、脂でギトギトの肉になるという。稲わらも国産にこだわり、り、自分たちで近郊の農家を回って集めてくる。

 大阪ウメビーフのおいしさを作り出すのは、いい水、吟床されたエサ、清潔な牛舎、そして原野牧場のみんなの牛への愛情によりストレスなく育てることに尽きる。

 リピーター続出の大阪ウメビーフは、今も堺の街中で大切に育てられている。

以上

大阪ウメビーフ生産牧場 農業組合法人日野農産
原野祥次さん、作啓さん
590-0829大阪府堺市堺区東湊町4228

原野牧場ホームページはこちらから


『大阪食べる通信 第2号(2019年3月発行)』より特集記事を抜粋

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