「熊に会った次の日の朝、世界がまるっきり変わっていました」 りんご農家 兎澤さんの物語

「りんご作りをやめようと思って山に入りました。私にとってりんご作りをやめるということは、死ぬということなので、そういうつもりで山に入ったんです。でもそこで親子連れの熊に出会いました。距離は3mほどでしょうか。熊が立ち去るまでの間、全く動けませんでした。何度もこちらを振り返りながらその姿が見えなくなるまで見送ると、涙が流れてきたんです。私、泣いてました。変ですよね、死ぬつもりで山に来たのに、いざ死を目前にすると死ぬのが怖かった。その晩は、一人でわんわん泣きました」

 

秋田県鹿角市でりんごを栽培する兎澤忠良さん。苦節17年を乗り越え、化学農薬不使用でりんごを育て、今年有機JAS認証を取得した。虫や病気、周囲からの冷たい視線に苦しめられ、ようやく光が見えたころにりんごを使った商品開発のアイディアの盗用、東日本大震災。原発事故についての情報が錯綜する中、身近な人からの「もう、ここでもりんご作れないかもしれないね」という何気ない一言……。追い詰められた。りんごがない人生を想像できないと語る男に、りんごの神様はあまりにも残酷だった。

 

「熊に会った次の日の朝、世界がまるっきり変わっていました。全ての生きものに、手を合わせるようになりました」。焚き火につられてテントに迷い込んで来た蛾を、ふわりと包んで逃がしてやる。足の長い蜘蛛の、手を引くように足をつまんで外に出す。道をゆくアリさえ避けるようになった。「私のりんごを買ってくれるお客さんの中にも、農薬メーカーの人もいるかもしれない、そう想像すると栽培方法に対する考え方が180度変わりました」。化学農薬も、慣行栽培も絶対に否定しない。

 

他人を配慮し、言葉を選び、何度も口を開けては閉じてを繰り返し、涙を流しながらその半生を語ってくれた。

 

赤く、大きく、たわわに実ったりんごは、彼の紅潮した頬のようでもあったし、何度となく傷つけられてきた彼の心が流した血のようでもあった。この優しい生きものが、私の目の前で息をしてくれていてよかったと思う。彼が育てたりんごをこうして頬張れることに、ただただ感謝したい。

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