今だからこそ、“百姓”としての暮らしが残る山村に触れてほしい。山奥で育てるワサビや代々受け継いできた雑穀、在来種の野菜たち。そのストーリーには、自然の営みに沿った持続可能な暮らしへのヒントと、生きる充実感があふれています。
「山の暮らしを食べる通信」は、東京に最も近い秘境・山梨県上野原市西原地区からお届けします。市場では出回らない、地域の在来種や山菜などを中心に、百姓と自然が育んだ“山の食べもの”をピックアップ。都会では味わうことのできない山の味と、その背景にある自給自足的な暮らしの豊かさを身近に感じてもらえるような通信を目指します。
「山の暮らしを食べる通信fromさいはら」の創刊号は、地域在来のジャガイモをお届けします。市場では全く出回らない、西原地区・近隣地域のみでつくられている「富士のねがた」と呼ばれる希少品種です。緻密にしまった肉質、独特のしっとり感があり、初めて食べると「これがジャガイモ?」と驚く、独特の食味。昔の品種ながら、ほかにはない美味しさで地元では根強い人気があります。
なかでも、小粒ジャガイモを味噌で甘辛く煮詰めた郷土料理「せいだのたまじ」には、ねがたの存在が欠かせません。
皮付きのままの小粒のジャガイモを丸のまま使うことがポイントで、大きい芋でつくるより断然美味しい。この料理は「ねがたでつくるのが一番だ」という声がよく聞かれます。今回、みなさまにお届けできるサイズは、収穫までのお楽しみですが、できれば小粒のお芋の美味しさもぜひ味わってもらえるようにしたいと思っています!
地元に密着した在来ジャガイモ「富士のねがた」は、もともとは江戸時代から山梨で広くつくられた品種ですが、数百年の時を経て、現在はごく限られた山間地域のみで細々と栽培が続けられています。貴重な在来種を未来につないでいきたいという思いで、創刊号はこの「富士のねがた」に決めました。
特集の生産者はこの在来ジャガイモ「ねがた」を、鍬一本で生産する原島辰己さんにクローズアップします。誰よりも朝早くから畑仕事に精を出す、86歳の現役お百姓です。長年の山仕事で鍛えた身体、どんなときも笑顔を絶やさず、雨の中でも歌いながら草刈りするという、生きる達人のようなこの方の語り、乞うご期待。
山の暮らしを食べる通信は、食べものの生産現場と、暮らしを一体に捉え、山の恵みを生かした栽培や、保存食など食文化としての知恵、地域の自然に寄り添って暮らすための知恵と技を紹介します。地域の人間だけでなく都市と地方の人々がともに生きていくことを願い、消えかかる山村の暮らしとその達人たちが秘めている、未来の暮らしへのヒント、毎日の生きかたへのヒントとパワーをお届けしていきます。山の恵みを食べて終わりではなく、その食べものが山村のどんな時代を経て、人々にどのように育てられてきたのか、思いをはせることができたら、その食卓は何倍もの奥行きをもつだろうと思います。
東京都との境にある、山梨県上野原市西原(さいはら)地区。都心から90分ほどでアクセスできる近さにありながら、西原には昔ながらの山村の風景、自給自足的な暮らしが今もひっそりと息づいています。相模川の源流が流れ、現役の水車が回り、山の麓の斜面に開けた畑には在来種も数多く栽培されています。中でも、長年主食として食べられてきたキビ・アワなどの雑穀は、長寿食としても注目され、学びに来る人々も後を絶ちません。
美しい風景が残っているのは、そこに暮らす人々が自然の循環を生かした暮らしの技術を持っているからであり、それらを失わずにここまで暮らしを続けてきたからこそ。自然にあるものを生かして、暮らしに必要なものを自分の手でつくり出してきた先人たち。しかし、地域の高齢化にともない、そうした手仕事、自然と共に生きる術を知っている世代も少なくなってきました。これからの5年、10年で山村の風景も技術も文化も、まるきり変わってしまうかもしれません。山の暮らしを食べる通信は、これらを次世代に引き継ぎたいという思いで、立ち上げました。
山村には自然と調和した暮らしへのヒントや資源が沢山ありますが、どんなに価値あるものが存在したとしても、この地に関わる人が少なければ、未来につないでいくことは難しい。一方で都市部もまた、自然も人も分断された大量消費社会からの転換期を迎えているのではないでしょうか。地方も、都市部も、ともにつながることが求められている時代。ぜひ読んで・味わって・時々遊びに行ってみる、そんな山村とのお付き合いを「食べる」ことを通してはじめてみませんか?