「花巴」は酸がうまい酒である。しっかりした酸が、時にブドウのように甘く、時にグレープフルーツのようにほろ苦く、イチゴのように甘酸っぱくも。芳醇な「山廃」ながら爽やかで、「水酛」はリッチでジューシー。ヨーグルトのような乳酸醗酵の香り、パンチのある複雑な味わいが楽しめる。
その一方で、「風の森」はシュワ感から始まる。栓を開けるとシュワシュワッと炭酸ガスが弾け、次いで爽やかな果実香が鼻奥を抜ける。まさに“蔵生”しぼりたてを封じ込めた副産物であり、日本酒のイメージを覆された人も多いだろう。前者は無添加の酵母作りに励み、自然発生した“蔵つき酵母”で醸した酒。後者は、通常は酒により変える酵母も7号系酵母1つ。米の持つポテンシャルを最大限に引き出すため、純米酒も純米吟醸酒も、すべての酒を「純米大吟醸並み」に仕込む。
そんな「極」と「極」を行くある意味正反対の酒蔵を、今回は『奈良食べる通信』創刊以来初の試み、ダブル特集でお届けする。
ー 『奈良食べる通信』とは? ー
「食べる通信」とは、食べものを作り続ける生産者をクローズアップし、彼らの想いやストーリーを特集した冊子と、彼らが一生懸命育てる地域のおいしいものがセットになって、自宅に届きます。単なる情報誌でもなく、食材の通販でもない、新しいスタイルの体感マガジンです。2013年に東北から始まったこの新たな情報誌が、今全国へと広がっています。分断された生産者と消費者、この両者をつなげたい。それが「食べる通信」の目指すゴールです。 つくった人の顔が見えたとき、つくった人の想いに触れたとき、つくった人のものを食べたとき、私たちはきっと感動する この言葉を体感してほしい。読んで、知って、作って、食べる。私たちは、もう一歩先の出会いも作りたい。そのために、「奈良食べる通信」は独自のコンセプトを作りました。それが「食でめぐる奈良」。食べたら終わりではなくて、そこからがスタートです。生産者の農場を見にきてください。知られざる奈良の魅力を発見してください。どんなに関心があっても、いきなり生産者を訪ねることは、勇気がいります。でも、誌面で知っている、あるいはSNSでつながっている生産者なら、実際に会いに行くことは難しくありません。いわば、「奈良食べる通信」は、生産者とつながるためのパスポートなのです。