東北食べる通信
編集部が東北中を駆け回って惚れ込んだ、農家さん・漁師さんの物語をお届けします。茎付きのサトイモ、殻付きの牡蠣…一緒に届ける食べ物もなるべく自然に近い状態にしています。ぜひ家庭で畑や海の香りを楽しんでください。
運営者情報
株式会社ポケットマルシェ
〒025-0096 岩手県花巻市藤沢町446-2
TEL:0198-33-0971
代表者:高橋博之
運営責任者:岡本敏男
連絡先:info@taberu.me
東北食べる通信編集長の高橋博之です。東日本大震災の後、この人に会いたいと心の中で思っていると、不思議なことに現実になります。建築家の伊東豊雄さんには同通信創刊号に寄稿してもらい、解剖学者の養老孟司さんには同通信で対談させてもらい、生物学者の福岡伸一さんには同通信のイベントで講演してもらいました。この方々に共通しているのは、「成長」に価値を置いていないところです。
私も20年前から「脱成長」を言い続けてきました。そして、またひとり、会いたいと願っていた人に会えました。山形県高畠町の農民詩人、星寛治さんです。81歳。日本の有機農業の第一人者です。脱成長という同じ旗を掲げていて、会った瞬間に意気投合。星さんの書斎で2時間も向き合い、奏で合ってきました。何度も星さんのところに通っている新聞記者さんが「こんなにうれしそうな星さんを見たことがない」と言っていたくらい。
星さんは大震災の年に、『尊農攘衣の思想』という小論を書いています。曰く「TPPの黒船に対峙して私は"尊農攘衣の思想"を砦にしたい。命の糧を生む"農"を第一義とし、環境を守る機能も正当に評価する。美しいふるさとを荒廃させては子孫に顔向けできない。"攘衣"とは使い捨ての消費文明の衣を脱ぐこと。簡素で心ゆたかに生きる成熟社会の価値観を身に帯び、自己実現を図ろう」。
身の丈に合った簡素な生き方で持続していく社会。これが星さんが目指してきた脱成長社会です。その脱成長の思想的出発点は、農民詩人の宮沢賢治にあったといいます。ぼくは宮沢賢治と同じ岩手県花巻市出身です。今回、出版した新著『都市と地方をかきまぜる』は、脱成長社会にどのようにソフトランディングしていくか、その道筋の一端について書きました。結論から言うと、タイトルがその道筋です。
97パーセントの消費者と3パーセントの生産者がつながり、かきまざることで、脱成長社会へと上書きされていく。なぜなら、3パーセントの生産者が生きる舞台である自然には、永遠に成長する存在がないからです。成長という概念自体が成り立たない。資本主義は、前月比、前年比と、常に前よりどれくらいよくなったかが問われる世界です。しかし、その考えが通じるのは、人間の経済社会だけです。
自然にはその考え方が通じません。目先の損得だけで行動し、「今年は豊作だ、大漁だ」などと浮かれてとりすぎると、翌年、しっぺ返しをくらいます。だから、ほどほどにやる。「拡大成長」とは違う「循環持続」という価値観が、農家と漁師の世界にはあります。それを、人間の経済社会も学ぶべきときにきていると、ぼくは思います。
ぼくたちの経済社会の「拡大成長」という生き方は、地球の裏側で生きる誰かを搾取して成り立っています。そして、まだこの世に生を受けていない未来世代の利益を先食いしています。さらに、ここがなかなか気づきにくいのですが、ただ一度きりの自分の人生をも犠牲にしている。未来のためにと、二度とない「今この瞬間の生の充実」と放棄していないでしょうか。果たしてこれは本当に幸せな生き方でしょうか。人間らしい、生き物らしい生き方なのでしょうか。
今この瞬間の生を充実させる生き方は、拡大成長とは違うベクトルにあります。だから、他者も自然も自己も犠牲にすることはない。この先、台風の大型化、多発化が懸念されていますが、その要因として指摘されているのが温暖化です。ぼくたちの「拡大成長」という生き方が今、ぼくたち自身に襲いかかろうとしている。生産現場を歩いていて、今や気象異変を口にしない農家や漁師はいません。自然からの警告を日常的に感知しているカナリアが、彼らです。
かたや冷暖房のある箱の中で暮らすぼくたち消費者は、気象異変を日常的に実感することはありません。だから、生産現場を襲う自然災害を自分の暮らしに引き寄せて考えることができない。でも、つながっているんです。つまり、ぼくたち一人ひとりが共犯者なんです。でも、そのつながりが見えないからそのことを自覚できない。誰にとっても身近な「食」を通じて、97パーセントの消費者が3パーセントの生産者につながり、その世界を間接的にでも日常化できれば、共犯者としての自分を自覚し、行動を変えていくことができるんじゃないか。
新著『都市と地方をかきまぜる』では、ぼくたちの暮らしに襲いかかる化け物の正体が、ぼくたち自身であることを示しました。ゆえにその化け物は退治することができないので、共存していく道を模索するしかないと。それは、ぼくたち一人ひとりが暮らしの主役の座に座り直すことで、「生」の充実を取り戻す道になると。今の「拡大成長」の生き方や社会のあり方に確信が持てなくなっているひとたちに、ぜひこの本を読んでもらいたいです。
都市と地方をかきまぜる(光文社新書)
https://www.amazon.co.jp/dp/4334039367
で、実際に97パーセントと3パーセントをつなげるために始めたサービスが、ポケットマルシェです。旬の食材を生産者から直接購入できるスマホアプリです。「ごちそうさま」も伝えることができます。ぜひ、お楽しみください。
ポケットマルシェ
http://pocket-marche.com/
東北食べる通信編集長 高橋博之
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