東北食べる通信
編集部が東北中を駆け回って惚れ込んだ、農家さん・漁師さんの物語をお届けします。茎付きのサトイモ、殻付きの牡蠣…一緒に届ける食べ物もなるべく自然に近い状態にしています。ぜひ家庭で畑や海の香りを楽しんでください。
運営者情報
株式会社ポケットマルシェ
〒025-0096 岩手県花巻市藤沢町446-2
TEL:0198-33-0971
代表者:高橋博之
運営責任者:岡本敏男
連絡先:info@taberu.me
おばんでございます。高橋博之です。一週間ぶりに台湾から帰りました。
「非典型日本人、高橋 博之」。そう何度も台湾人に言われました。本音と建前がなく、はっきりモノを言うからだそうです。あと、飾らないところも日本人らしくないと言われました。まぁ、普通に講演の冒頭で「今、痔で苦しんでいるので、怖い顔してたら、あぁ、痛いんだなーって思ってください」とか言ってましたからね。外国人相手だろうが、相変わらずプレゼン資料なしだし、リラックスして裸足でしゃべってましたし。
今回、台湾国内を宜蘭、苗栗、台中、高雄、台北と、くるまざキャラバンで縦断するという企画を、台湾の出版社が立ててくれ、なんの準備もせずに勢いで単身乗り込みました。くるまざ座談会は20人が上限だと事前に伝えていたんですが、宜蘭40人、苗栗40人、台中40人、高雄70人、台北180人と、どの会場も立ち見が出るほどの大盛況で、正直、なんでこんなに人が入るのか最初は不思議でした。
が、途中で理由がわかりました。日中、農家のところをあちこち回ったんですが、聞かれる声は日本の農村で聞く声と驚くほど一緒でした。高齢化、過疎化、担い手不足、嫁不足、外国人労働者問題など。また、くるまざで参加者の消費者から出る声も、リアリティの崩壊やコミュニティの融解、生きがいややりがいの喪失など、日本で聞くそれと一緒でした。
つまり、台湾が直面している課題と、日本で直面している課題はすごく似ているので(日本がより深刻でしたが)、台湾で翻訳・販売された前著『だから、ぼくは農家をスターにする』のメッセージが台湾人にも刺さったということだったんです。あと、恥をさらして書いた、挫折だらけのぼくの半生にもいたく共感しているみたいでした。こんなひとにもできるなら自分にもできるかもしれないと勇気をもらった的な。
台湾人はすごく積極的で、「質問ある方は?」と聞くと、次から次へ手があがり、キリがありませんでした。そのやりとりが楽しくて仕方がありませんでした。なんていうか、みんなグランドに降りてるんですよね。当事者性があるっていうか。だから、厳しい意見も遠慮なく飛んでくる。話を聞く姿勢も、すごく前のめりで、中には感極まって涙する人もいたり。とにかく熱いんです。
通訳をしてくれた月足さんも熱い人でした。ぼくは、通訳が入ると自分の本当に伝えたいことをちゃんと伝えるのは難しいだろうと思っていましたが、杞憂でした。日本語が伝わらないのは百も承知で、でも真剣に話したんです。そしたら、その魂が通訳に乗り移るっていうか、ここを強調したいってところでちゃんとボルテージあげてくれるんです。「高橋さんの話を通訳していて、細胞が喜んでるのがわかりました。何度も鳥肌が立った。こんなことは初めての経験です」と、鳥肌が広がった両腕を見せてくれました。
今回、このくるまざキャラバンを企画してくれた台湾の出版社の田さんは、会社の上司から「無名の日本人連れてきてどうするんだ。そんな金にならないことやる余裕はない」と言われたそうです。で、お金にはならないけれど、ぼくに来てもらうことには大きな意味があると会社を説得し、ある企業からキャラバンにかかる費用も支援してもらったそうなんです。まだ会ったこともないぼくを呼ぶために。そして訪問する先々の農家さんにも事前にぼくの本を渡し、みなさんちゃんと読み込んでくれていました。こうした動きがメディアの耳にも入り、台湾最大手の経済雑誌で特集が組まれることなり、会場で急遽写真撮影するなど、終始ドタバタでした(結局、観光はおろか、土産物を買う暇もなく終わってしまった。。。)
損得を超越した思い、言霊は、こうして人から人へと伝播し、国境をも軽々と超えてしまうんだなと実感しました。そして、この本を書いて本当によかったなと思いました。今回、台湾で食べる通信を創刊したいという声も複数あがりました。東北の被災地は世界の課題先進地域なのだから、ここから世界に広がる新しいモデルが生まれると寝言を言い続けてきましたが、それが現実になろうとしていることを嬉しく思います。今回のご縁の発端になった台湾人の簡さんをはじめ、このキャラバンを支えてくれたすべての台湾人に感謝したいと思います。多謝!あと、痔の苦しみから解放するバファリンをおすそ分けしてくれた岩田さんにも。
最後に。今回、堂々と自分の意見をみんなの前で表明する台湾人を見てきたわけですが、たまたま帰りの飛行機で読み直していたハンナ・アレントの『人間の条件』と重なるところがありました。アレントは、人間の活動的生活を「労働」、「仕事」、「政治活動」と3つに分類し、最後の「政治活動」の意義を最も強調しました。そして、政治に参加する市民がポリスで発言し、自らの行為を開示することが重視されたギリシャの例を挙げ、次のように書いています。
「人間の複数性とは、唯一存在の逆説的な複数性である。言論と活動は、このユニークな差異性を明らかにする。そして、人間は、言論と活動を通じて、単に互いに異なるものという次元を超えて抜きん出ようとする。つまり言論と活動は、人間が、物理的な対象としてではなく、人間として、相互に現れる様式である。この現れは、単なる肉体的存在と違い、人間が言論と活動によって示すイニシアティヴにかかっている。しかも、人間である以上止めることができないのが、このイニシアティヴであり、人間を人間たらしめるのもこのイニシアティヴである」。
あー、そうか。人間を人間たらしめる場として、くるまざ座談会をやり続けてきたのかと、今さらですが、腑に落ちたのでした。そのことを気づかせてくれた台湾には、やはり多謝の言葉しかありません。
この人間を人間たらしめる政治活動を欠いた人間は、常に難民になる恐れがつきまとうとアレントは言いました。アレントの定義する政治活動とは、ぼくらがイメージする選挙みたいな政治活動ではありません。自分が何者であるか示すには、何の仕事をしているかは重要ではない。固有の名前を持った存在として活動する、つまり言葉や行為を通じて意思表示し、公的世界に現れることが大事で、そうでなければ公的世界に認識されることもなく、「忘却の穴」に転落することになるだろうと。さて、みなさんは、人間になれているでしょうか?
東北開墾代表 高橋博之
<台湾訪問風景>
編集部が東北中を駆け回って惚れ込んだ、農家さん・漁師さんの物語をお届けします。茎付きのサトイモ、殻付きの牡蠣…一緒に届ける食べ物もなるべく自然に近い状態にしています。ぜひ家庭で畑や海の香りを楽しんでください。
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