きれいごとは、国境を越える〜台湾訪問記3日目〜

台湾3日目の朝です。

今回、正直よく分からずに台湾に来ました。昨年出版した『だから、ぼくは農家をスターにする』が今年、台湾で翻訳・発売されました。大学生などの若者を中心に売れ行きがよくてすぐ重版が決まり、台湾の出版社から「日本でやっている車座座談会をこっちでもやってほしい」と言われ、台湾に行ったこともないし、そもそもなぜ台湾でこの本が売れているのか事情も知りたいしと、そんな気軽な気持ちでやってきました。

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そしたら、なんだかすごいことになっていて、面食らっています。まず、写真にあるようなポスターがあちこちに貼られていました。宜蘭、苗栗、台中、高雄、台北と、5日間かけて、台湾全国を回る車座キャラバンのポスター。

空港で出迎えてくれたのが、出版社の田さんと、有機農業の認証機関で働く月足さんでした。月足さんは元々は日本人で、台湾で暮らして23年。その月足さんが会社を一週間休んで、今回、ボランティアで運転手兼通訳をしてくれるということでした。なんで見ず知らずの人がこんなによくしくれるんだろうと、最初はよく理解できませんでした。

で、初日の昨日は大都市・台北から最も近い農村の宜蘭県に行きました。朝から、台湾で最も有名だという地元の有機農家、賴青松さん(日本の生協で3年働いていたので日本語堪能)が合流し、賴さんの案内で宜蘭の生産者の現場を見学してきました。そして午後3時、車座座談会の会場になっている村の小さなカフェに行くと、定員の20人を上回る40人以上が来場されていて、立ち見状態。参加者は20代から40代が中心で、地元出身者や台北からの移住者などの若者たち。みんな会社を早退して来てくれたとのことでした。

地元のふたつのテレビ局のカメラも入り、日本から密着取材できているテレビ局のカメラも入り、物々しい雰囲気で車座が始まりました。参加者のほとんどが本を読んでいて、付箋紙も貼ってるし、すごい質問攻めにあいました。で、終わると今度はサインと写真攻めの行列が。。。なんだなんだ、これって何かのドッキリなんじゃないか。そう本気で疑いたくなりました。飯はどこ行っても地元のご馳走めいっぱい振舞われるし。

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で、昨夜、関係者からいろいろ事情を聞いてようやくことの経緯を知りました。台湾人で現在日本で働いている簡さんという若い女性がすべての発端だった。簡さんは「食べる通信」に共感し、一度イベントにも参加してくれたことがありました。その彼女が本を読み、これは台湾の人にも是非読んでもらいたいと、台湾の出版社の知人、田さん(冒頭に登場した人)に紹介。田さんは日本語が読めないので、日本語に堪能で農業に詳しい月足さん(冒頭に登場した人)と、賴青松さん(前半紹介した宜蘭県の有機農家)に本を読んでもらい、感想を求めたそうです。

ふたりとも感動してくれ、「これは絶対に翻訳して台湾でも読んでもらうべきだ」と太鼓判。で、今回の出版になったということでした。さらに今回、私を台湾に呼ぶにあたっても、予算の制約がある中で、みなさんボランタリーにこのキャラバンを支えてくれていることで、ようやく成立していることを知りました。運転手とか、通訳とか、食事とか。ちなみにぼく、台湾に来てまだ財布を開いていません。

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あの本で伝えたメッセージが台湾のひとりの女性に刺さり、彼女を通じて台湾の関係者に刺さり、その関係者を通じて多くの読者に刺さり、今回起こっているようなことが必然として起こっていた。そのことを知り、感謝の気持ちでいっぱいになりました。まさに、至誠天地ヲ動カサンだし、天空の城ラピュタのシータ、です。

今回のことを通じ、改めて思いました。きれいごとは、国境を越えると。そして食は、世界を変える共通言語になると。私は、東日本大震災の後、課題先進国の日本を先取りする東北の被災地は世界の課題先進地域なのだから、ここから日本、そして世界の課題を解決するモデルが生まれるんだと繰り返してきました。頭ではそう考えていましたが、今回の出来事で、現実にそうだと確認することができました。台湾の農山漁村を回っていて聞こえてくる声は、日本の農山漁村で聞く声とほぼ同じだったし、都会で暮らす消費者の声も同様にほぼ一緒でした。

日本は経済大国と世界から見られる時代は終わりました。これからは、アジアの中堅国家のひとつとして、アジアの国々と連帯を深めることが、国家外交としても、民間経済交流としても、日本のプレゼンスを維持するために不可欠な姿勢、戦略と思います。そして、頭と身体、都市と地方、人口と自然、意識と無意識、西洋と東洋の均衡をはかっていく要になるのが、日本にしかできない役割だと思うわけです。

東北開墾代表 高橋博之


東北食べる通信

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