つくる人と食べる人がつながって、
400年続いてきた地域の宝を絶滅の危機から救った話


奇跡②

昨日、今年最後となる83回目のくるまざを青山でやりました。そこに、東北食べる通信2013年11月号で特集した会津若松市の農家、長谷川純一さんがやってきました。会津には400年前にポルトガルから伝来し、今日まで受け継がれてきた在来種「小菊カボチャ」があります。NHK大河ドラマ『八重の桜』で、八重さんが最後に鶴ヶ城で籠城食として食べていたあのカボチャです。会津の人々に親しまれてきたカボチャでしたが、在来種ゆえに大量生産できず、買い叩かれ、どんどん農家さんが生産を止めていきました。

ぼくがこのカボチャの存在を知った一昨年秋には、小菊カボチャを育てている農家さんはたったのふたりになってしまっていて、そのうちのひとりが、純一さんでした。会津で純一さんに初めて会ったとき、「こんな売れないものまだつくっているのか」と市場関係者や奥さんに言われていると嘆いていました。それでもなぜ続けるのかと聞くと、「これがなくなったら会津が会津でなくなる。この地域に400年続いてきたものを自分の代で終わらせるわけにいかない。子どもたちの世代にちゃんと受け継ぎたい」。

そうした思いを背に、純一さんは地元の学校を説得し、子どもたちの給食用に細々とカボチャを生産していました。この物語をぼくはそのまま食べる通信の特集に書き、このカボチャとセットで読者にお届けしました。ここから小さな奇跡が始まります。カボチャの物語と味に触れた読者と純一さんが対面した交流会で、ほろ酔いの純一さんはこぼします。「在来種を増やすには、種が必要。みんな食べ終わった後の種を返してくれたら」。これを聞いたある読者が、「よしっ、みんなでカボチャの種を返そう」と他の読者に呼びかけたところ、実に70人から種が戻ってきたのです。

食べ終わったカボチャの種を乾燥させ、封筒に入れ、純一さんへのメッセージと一緒にある読者のところ届けられ、そこに賛同する読者たちが集まり、使える種と使えない種に仕分けし、使える種を純一さんに直接手渡したのでした。長年、農業をやってきてこんなことが起きたのは初めてと感動した純一さんは翌年、地元の農業高校の生徒と一緒に畑にその種を蒔きました。そして、今度は種を渡した読者たちが会津を訪れ、一緒に収穫し、料理して食べるという交流を、この3年繰り返し続けてきました。

その結果、このカボチャの価値は、読者によって口コミで、あるいはメディアによって新聞やテレビで、伝えられていきました。それまで販路先が学校以外にないため、作付け面積を減らし続けていた純一さんでしたが、今では作付け面積を何十倍に増やさないと追いつかないくらい販路が拡大。カボチャの生産者もふたりから15人に増え、それまでバイヤーの言い値で売っていたカボチャを、純一さんの言い値でバイヤーに買ってもらえるようになったのです。そして、この種を返そうという運動は地元でも広がりを見せ、農家を志望する高校生も出てきたといいます。

マーケットに出しているときは伝わらなかった価値が、食べる人と直接つながり、そこに生まれたコミュニティを介することで伝わっていったこの事例は、小規模だけれどこだわって生産している農家のひとつの生きる道を指し示しているように思います。そして、おそらくは小さな自治体が生きる道も、これと同じ方向にあるように思います。純一さんは今年、全国8ヶ所から講演の依頼を受け、この小さな奇跡の物語を伝えて歩いてきました。これと同じような小さな奇跡が全国各地で起これば、この日本の豊かな食の世界を次世代に受け継いでいくこともできるはずです。

今、上から聞こえてくるのは、大規模化、法人化といったさらなる効率化を生産現場に求める声です。生産者が右肩下がりで減っているので、こうしたこともやっていかなければならないこともわかりますが、この効率化路線に偏る農業は危険だと思います。純一さんの事例は、効率ではなく、非効率な世界で起こった出来事です。食べる人とつくる人が直接つながる。これは手間もかかるし、本当に非効率なことです。それでも、深いんです。効率は浅く、非効率は深い。価値の深いものを伝え、残していくには、非効率な世界こそ大切にしなければならないということを、ぼくは純一さんと読者たちに教えられました。

ぼくたちの命に直結する食には、天候リスク、気候変動リスク、政治リスク、外交リスク、国際マーケットリスクがつきまといます。特にも海外からの輸入に大きく依存している日本のような国は、このリスクが大きいです。各地で多品種が育てられていて、自然の変化にも適応できる在来種が残っていれば、これらのリスクへの対応も可能になります。ですから、フードセキュリティの観点からも、小規模農家を一定数確保していくことは非常に重要なことなのです。小規模農家が生き残っていくためには、価値を共有してくれる消費者と直接つながることです。日本の食の流通の15パーセントを、このような形に変えることで、未来の子どもたちの命を守ることができます。

昨夜は、くるまざの後、各地の食べる通信が特集した農家や漁師たちから取り寄せた食材を、読者たちが料理し、彼らや自然に感謝しながら、みんなでおいしくいただきました。食べる通信は今、全国各地に広がっていますが、この世界に触れる人々がどんどん増えることで、みんなで「15パーセント」に近づいていきたいと思います。政治がどう、役所がどう、農協がどう、スーパーがどう、ではなく、私はどうするか。あなたがどうするかで、子どもたちの未来も変わります。

東北食べる通信編集長 高橋博之